さて、今月は久しぶりの症例紹介です。
まず、こちらの写真をごらんください。
一見すると、気になる部分は上顎の前歯の前突感と すきっ歯ですね。
しかし、レントゲンを撮ってみると、、、
上の前歯の根っこの部分に重なって斜めに写っている歯がありますね。これが永久歯の犬歯です。
この患者さんの主訴は「乳歯がぬけたのに永久歯の犬歯が生えて来ない」ということで、左側は乳歯が抜けたまま隙間になっており、右は乳歯の犬歯が抜けずに残ったままです。
では、なぜ生えて来ないかというと、原因は犬歯が通常よりずれた位置に出来てしまったからです。
一般に永久歯が生えて来ない原因は大きく分けて二通り。ひとつは永久歯自体が出来ていない「先天性欠如」、もうひとつは永久歯が本来の場所とは違った位置に出来てしまった「移転歯」です。
当院のホームページでは、これまでも犬歯の萌出異常の症例は何度か紹介してまいりましたが、こちらは今までの症例とは違うタイプの症例です。
参考症例:歯の生える場所が入れ替わる!? -移転歯-
移転歯2 治療例
移転歯+先天性欠損+矮小歯・・・その治療例
何がどう違うのかというと、レントゲンではわかりにくいですが、この症例の犬歯は上顎の内側のほうに向かって埋まっているのです。(写真 丸の部分にうまっています)
より確実に把握するために3DCTを撮影しました。立体的に見えるので歯の重なりの前後の位置関係がよくわかります。
幸いこの犬歯は埋まっている向きから推測して、他の歯の根っこに当たって歯根吸収を起こす心配はなさそうですが、きちんと生えさせて歯列に並べるのはかなりむずかしそうです。
基本的な方法は通常の移転歯と同じく、歯の埋まっている部分の歯ぐきに穴を開けて埋まっている犬歯に装置をかけて牽引していくのですが、歯の埋まっている位置がいままでと違い内側のほうにあるため、通常のリンガルアーチという装置がつかえないのです。
<一般的な移転歯症例 2010年 12月 移転歯2 治療例>
そこで、特別な設計をしてワイヤーアームで犬歯をひきあげつつ、外側に押すという装置を製作しました。
まずは口腔外科の先生に依頼して歯ぐきを開けてもらい、埋まっている犬歯の先端を装置が着く面積だけ露出させてもらいます。その後すぐに当院にて、露出した部分に装置のワイヤーアームを固定するための突起を接着します。(露出させたらできるだけ早く装置をかけないと歯ぐきの組織が増殖してきて穴が埋まってしまうので、あらかじめワイヤーアームの装置のベースは装着しておいてから、口腔外科に依頼します。)
突起にワイヤーアームを固定し犬歯を引き上げていきます。
以下の写真は動かし始めて2ヶ月経過した時点です。かなり、生えてきています。
更に一ヵ月後。犬歯を歯列に並べるために外側に向かって押していきますが、犬歯が歯列に入るために充分な隙間が必要です。
前歯の中心の隙間を閉じたり、歯列全体の形態を整えるためにもすべての歯に装置をかけていきます。
隣の歯に犬歯がぶつからないように注意深くうごかしていきます。
上下の咬み合わせにも注意が必要です。上の写真では下の歯の咬み込みが深く、犬歯を外に移動させるのに邪魔になっています。
こういった全体の歯とのバランスをとりつつ、更に3ヶ月後。犬歯の移動を開始してから半年が経過しました。
犬歯はほぼ歯列まで移動しましたね。
あとは全体の歯並びとかみ合わせの仕上げです。一見ほとんどいいように見えますが、ここからが第二の勝負です。
左右のかみ合わせを見比べてみてください。
右側からの写真のほうが出っ歯に見えますね。左右のかみ合わせが非対称です。
意外に思われるかもしれませんが、このかみ合わせの非対称を治すのに、ここから約1年半かかります。
美容整形などで見た目さえよくなればOKということなら、ここで終わってもよいのでしょうが、あくまで健康なかみ合わせを目指すのが歯列矯正の本道、あせらずもうひとがんばりです。
治療終了!
治療期間2年1ヶ月。左右共にしっかり咬んでいます。前歯から犬歯のひとつ後ろに歯まで、後戻りしないよう、歯の裏から固定しています。他にも歯列のアーチ型全体をキープするために取り外し式のマウスピースを使用してもらいながら、安定させていきます。
さて、今月は少し珍しい症例をご紹介させていただきましたが、実はこういった移転歯は年々増えています。当院ではこういった症例は以前は一年に一人か二人くらいといったイメージでしたが、最近では本当に頻繁にいらっしゃいます。しかも、次々と難しい位置や、犬歯だけでなく奥歯の小臼歯の移転歯、当院に来られた時点で既に根っこの損傷が始まってしまっている症例など枚挙に暇がない状態です。外科の先生と連携をとりながら治療に精進する日々ですが、皆さんも歯が生えてこない、へんなところが盛り上がってきたなど異常に気づかれましたら、お早めにご相談ください。
治療データ詳細
主訴: 出っ歯 診断名:上顎前突、上顎両側犬歯埋伏 年齢:12y1m
治療装置:マルチブラケット装置(上顎:リンガルブラケット)
抜歯部位:上顎右側乳犬歯 治療期間:2年0か月
治療費:矯正管理料として75万円(検査料・処置料別途)
矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用について:
① 最初は矯正装置による不快感、痛み等があります。数日間~1、2 週間で慣れることが多いです。 ② 歯の動き方には個人差があります。そのため、予想された治療期間が延長する可能性があります。 ③ 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正治療には患者さんの協力が非常に重 要であり、それらが治療結果や治療期間に影響します。 ④ 治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まります ので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。また、歯が動くと 隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。 ⑤ 歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がること があります。 ⑥ ごくまれに歯が骨と癒着していて歯が動かないことがあります。 ⑦ ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受けて壊死することがあります。 ⑧ 治療途中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。 ⑨ 治療中に「顎関節で音が鳴る、あごが痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあり ます。 ⑩ 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。 ⑪ 歯の形を修正したり、咬み合わせの微調整を行ったりする可能性があります。 ⑫ 矯正装置を誤飲する可能性があります。 ⑬ 装置を外す時に、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、かぶせ物(補綴物)の一部が破損する 可能性があります。 ⑭ 装置が外れた後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。 ⑮ 装置が外れた後、現在の咬み合わせに合った状態のかぶせ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物) などをやりなおす可能性があります。 ⑯ あごの成長発育によりかみ合わせや歯並びが変化する可能性があります。 ⑰ 治療後に親知らずが生えて、凸凹が生じる可能性があります。加齢や歯周病等により歯を支えてい る骨がやせるとかみ合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になる ことがあります。 ⑱ 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。