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2024年10月 移転歯2 -治療例-

 先月ご紹介しました、歯の生える場所が入れ替わって生えてくる『移転歯』という症例。今月はどのように治療していくかを実際の症例を見ながら解説していこうと思います。

 

こちらがその症例。11歳9ヶ月当時の写真です。

              

 一見、特に問題は無いように見えます。

 

そもそも、この方はこの1年前に上顎前突と前歯の叢生を主訴に来院されました。

ちなみにこちらが初診時で、上の写真は10ヶ月程取り外し装置のEOAを使用してある程度治ってきたところです。

 しかし、ここで、初診時から気になって注目してきたひとつの問題がいよいよ浮上してきました。

レントゲンを見てみましょう。

番号をつけてあるのが永久歯です。

3と5は上の方にありますね。つまり、まだ生えておらず上あごの骨の中にある状態です。

 

ここで問題は3の犬歯の位置です。

5は生え変わる乳歯とちゃんと縦に並んでいるのに対し、3は2と縦ならびになっていて乳歯とはズレています。

 

 

正常な状態のレントゲンと見比べるとよりはっきりわかりますね。

黄色い矢印がこの先、歯の萌出する進路です。

 

乳歯は本来、左図のように真下から来る永久歯に押されることで徐々に歯の根っこが溶けてなくなり、最終的に乳歯は頭の部分だけになって抜け落ちるのが正しい状態です。

右図の場合乳歯は抜けずに残ったまま、3の犬歯は1.2の前歯の間に割り込むように萌出し、歯並びは激しく凸凹になります。また、悪くすれば、2の根っこが3に押されて溶けてしまう危険があります。

 

もう一度歯の写真の角度を変えてみてみましょう。

 

矢印の部分の盛り上がりがわかるでしょうか?

今まさに1と2の間に3の犬歯が萌出しようと盛り上がってきています。

 

さて、前フリが長くなりましたが、ここからが治療の開始です。

まずは、犬歯を生えさせる場所を用意するために乳歯を抜いてもらいます。

そのうえで、動かすべき犬歯に装置をつけなければ始まりません。犬歯はかなり骨の表面に盛り上がってきていますから、一番出っ張った部分の歯ぐきを少しだけ切りとってやれば、ブラケットがつく分くらいは犬歯の先っぽが見えてきます。

痛そうな話で恐縮ですが(もちろん切るときは麻酔をかけます。)、犬歯があまり深い位置にある時点では、たくさん歯ぐきを切らないと犬歯が見えてきませんし、自然に生えてくるまで待ったのでは、動かすのに手遅れになります。

我々はこのぎりぎりのタイミングを待っていたのです。

 

ということで、装置がついた状態がこちらです。

装置がついて1ヶ月経ったときの写真です。少し動いてきているので、かなりしっかり犬歯が出てきています。

 上からみると、こんな感じになっています。

これはLA(リンガル・アーチ)という装置で、内側の太いワイヤーが奥の大臼歯に固定されています。

その中ほどから両外に向かってのびている細いワイヤーのバネが矢印の方向に動いて先端に結び付けられた犬歯が引っ張られていくという仕組みです。

 横から見ると歯の位置関係がわかりやすいと思います。

空きスペースに向かってまっすぐ斜めに引きおろすと、2番目の歯とぶつかってしまいますから、まずは真横に動かします。

 

 4ヵ月後。

犬歯は正しい位置までやってきました。

 

あとは下に引っ張って下ろしていきます。

隙間の幅の微調整と前歯全体をキレイに一列にするためにも前歯にもブラケットを装着しました。

完成。

入れ替え開始から11ヶ月。無事キレイな歯並びになりました。

前歯部のみの治療の希望でしたので、ここで治療を終了し、歯並びを安定させる保定に入りました。

  前歯は後戻りしないように、裏側から固定しています。

 

この症例は、先月お話した3パターンの移転歯の治療法のうちの1)の『歯の位置を正常な順番に入れ替える。』という方法です。

難易度は高いですが、今回の症例は治療を開始したタイミングもよく、移転歯以外の上顎前突と叢生もあらかじめ充分改善されていたので、全体に非常にスムーズに治療できた症例といえます。

できれば、みなさんこの症例ぐらいのタイミングで来院していただけるとありがたいのですが、そうとばかりも言っていられないので、あともう2例、完全に犬歯が生えてしまってからの入れ替えの症例をご紹介しましょう。

 

<症例2>

 初診時 8歳10ヶ月 女子

治療前

右上に永久歯の犬歯(3)が1・2番目の間に生えてきており、犬歯の頭の部分は完全に生えきっています。

 

治療中

犬歯は生えきってしまっていたものの、治療開始時は横のほうの歯がまだ乳歯でしたし、レントゲンで見ても2番目のはの根っこの損傷もありませんでしたので、前歯と一番奥の永久歯のみに装置をつけて1年半、なんとか本来の順番に並べ換えができました。

ちょうど他の永久歯も生えそろってきたので、これから全部の歯に装置をつけて、全体の歯並びを整えていきます。

治療後

全体の治療に入ってから1年9ヶ月。無事治療終了!

 

<症例3>

 初診時 23歳4ヶ月 女子

治療前

左上の永久歯の犬歯(3)が1・2番目の間に生えています。乳歯の犬歯は抜けずに残ったままです。成人で完全に歯が生えきったこの状態で何年も経っています。ただし、二番目の歯の根っこに損傷はありませんでしたのと、その部分以外の凸凹が少なく乳歯が残っていた分、犬歯を収めるスペースが確保できそうでしたので、並べ替えで治療することになりました。

治療中

乳歯は抜歯し、全体の歯に装置をつけて全顎で治療を始めました。8ヶ月後、一見かなり並べ替えがすすんでいます。

しかし、ここからが問題です。写真では歯の傾きがわかりにくいのでレントゲンで示します。

歯の根っこが交差しています。永久歯が生えてずいぶん経っていたので、入れ替わった状態で根っこが完成してしまっていたからです。

初診時の写真だけ見ると症例2と3はそれほど差がないように見えますが、症例2では2番の歯の根っこ傾きがそれほどでなくこのような交差状態でなかったのと、まだ乳歯期で骨が柔らかったため1年9ヶ月で治療を終えましたが、こちらの成人の症例では、ここから2番の歯の傾きを治すのにはずいぶん苦労しました。

装置のワイヤーを色々な形にアレンジして、何種類もかえながら時間をかけて治療していきます。

治療開始4カ月

治療開始8カ月

治療開始12カ月

 

治療後

治療開始から2年5ヶ月。なんとか無事治療終了!

 

さて、移転歯の症例をいくつかご紹介しましたが、いずれも先月お話しした「歯の位置を正常な順番に入れ替える。」治療法に相当する症例です。

 移転歯の治し方 3つのパターン

  1. 歯の位置を正常な順番に入れ替える。
  2. 犬歯の生えてくる近くにある歯を動かしてスペースをつくり萌出させる。(最初の症例の場合4・5番の歯の間に隙間を押し広げて犬歯を萌出させる。歯の順番は4・3・5となる)
  3. 重なっている歯(上レントゲンの症例の場合2番目の歯)を抜いて、出来たスペースに犬歯を誘導して萌出させる。(歯の順番は1・3・乳犬歯・4、または乳歯が抜けてしまった場合は1・3・4となり歯の数は1本足らなくなり歯列のアーチが小さくなる)

幸いこの3例は無事に入れ替え出来ましたが、すべての症例がこのように入れ替えできるわけではありません、まず第一に歯の根っこが損傷を受けていないことが条件ですが、他にも様々な要素が絡んできます。状況によっては歯を動かしている途中で歯の根っこを損傷してしまう場合もありますので、見極めが重要になってきます。次回は入れ替えしないパターンの治療例をご紹介したいと思います。入れ替えは無理でしたが見た目の違和感ができだけでないように仕上げた症例です。