先月に引き続きまして、取り外し式の上下一体型マウスピース装置『EOA』のお話です。
こちらも以前のバージョンのホームページからのまとめなおしシリーズになります。(サーバーの都合により以前のバージョンが近々閲覧できなくなりそうなので、この機会に新たな症例や情報の加筆を加えつつ随時まとめなおしていっております。)
さて、先月はEOAで治療した症例をたくさん紹介させていただきましたが、今月は実際にEOAでどう治っていくのか見ていきたいと思います。
まずは先月のおさらい。こちらがEOAです。
EOAは取り外し式の上下一体型マウスピース装置で、子どもさん自身で簡単に取り外しできます。 自宅で夜間の就寝時やテレビをみている時、本を読んだり宿題をしている時などに装着して使用する装置です。学校や外出時などに使用する必要はありません。もちろん使用時間が長い程効きは良いですが一日8時間くらい使えれば効果はでます。
こちらの症例をご覧ください。
<治療前> <治療後>
先月ご紹介した症例集のうち最後の症例です。(詳しくは「2019年 2月 乳歯のうちに取り外し装置で矯正!」をご覧ください)
治療前後では別人のようですね。
かみ合わせの面から歯列の並びをみてみましょう。
<治療前> <治療後>
治療前では真ん中の歯は前突し、その横の二番目の歯は生える隙間が足らず、右は歯列からはみ出し、左は生えていません。
一方 EOA治療後では、永久歯はすべて無事萌出し、一列に並んでいます。また、正面からではわかりづらいですが、下顎も前方にしっかり誘導されたので、上顎前突も改善しています。
では、この治療の前後を重ね合わせてみましょう。
治療前のグリーンの歯列に対し、ピンクのEOA治療後の歯列はアーチ幅が横に広くなっています。
前歯がまっすぐに並ぶためには、それだけのアーチサイズが必要なわけです。
では、EOAが実際にどのようにお口の中で作用していくのかみていきましょう。
まず、EOA本体ですが、赤い「レジン」と呼ばれる樹脂とワイヤーでできています。形が複雑でわかりにくいので、いろんな角度から見てみましょう。
<上から> <真横から>
<正面から> <お口に入れたところ>
見慣れない方には、ワイヤーがごちゃごちゃしてわかりにくいので、部分的に図解していきます。
まず、歯列の幅を広げるのに重要なのは、赤い樹脂の部分と真ん中のU字形のワイヤーです。(上記の「上から」の写真をごらんください) で、これが、お口にセットすると、歯列に対し下図のようにはまります。(複雑なので、まずは前方のワイヤーは省略した図で説明します)
上下一体ですので、縦断面にするとこうなります。(「正面から」の写真参照)
この中央のU字形のワイヤーの部分を調整すると下図のようにひろがります。
ワイヤーは弾力がありますので、EOAを咬みこむと元の上図のようにちぢまって歯列に収まりますが、下の幅に広がろうとします。その力が樹脂部分を介して歯に伝わります。 基本的に歯は一定の方向に持続的に適切な定量の力が加わると、その方向移動する性質があります。 EOAを装着している間は歯列は常に内側から押される力が加わることになりますので、徐々に歯は外に広がるように移動していくのです。
ということで、こうなります。
ただし、これでは、ただ前歯のすきっ歯がひどくなっただけです。ここで重要なのが前歯の付近にある複雑なワイヤーたちです。 上の図では省略していましたが実際にはこんな感じになっています。
歯列の外側から力をかけるための「唇側線」と、内側からの「舌側線」の二種類が上下顎に各々ついています。 このワイヤーで内側に入っている歯は舌側線で、外に前突している歯は唇側線で押し並べていきます。 特に舌側線は上下左右に一本ずつ付いているので、歯にあわせて様々な形に曲げ変えることができ、力のかけ方次第で、歯の隙間をとじたり、ねじれを治したりといった治療も可能になります。
ただし、こういった歯の並びの移動は、移動先に歯が入るだけのスペースがあって初めてできることなので、必ず、前述の歯列のアーチ幅の拡大と平行して行います。取り外しの装置でありながら、拡大と並びの治療が同時にできるところが、一般的な拡大床(先月のトピックス「拡大床」参照)との大きな違いです。
さらに、もうひとつ拡大床と大きく違う点は、EOAは上顎前突や受け口など顎の前後または左右の位置のズレを治療できる点です。 そもそもEOAは機能的矯正装置という顎の位置のズレを治療する装置の仲間で、そのほかの仲間にはFKO・バイオネーター・ビムラーなどがあります。(詳しくは次回) 機能的矯正装置は咬む力など、口の周りや顎顔面の筋肉の力を利用して矯正治療をおこなう装置で、上下一体のマウスピースタイプの装置です。
機能的矯正装置は永久歯に生え変わる顎の成長期に非常に重要な装置で、この時期に顎のズレが改善できないと、下顎の成長が止まってしまたり、歪んだままになってしまいます。でこぼこの歯並びなどは大人になってから歯を抜いて治療するというのもひとつの方法ではありますが、健康な歯を抜きたくない場合や顎の上下または左右のズレが大きい場合にはこういった成長期の治療が有効です。永久歯列での治療では骨格的なアプローチが難しいからです(場合によっては骨を切る手術を併用する場合もあります。) 以下は下顎の小さいタイプの上顎前突ですが、成人になって来院されたので、抜歯治療を行った症例です。
乳歯期に治療していれば抜歯しなくてもすんだのか?といわれれば、必ずしも絶対と言いきることは難しいですが、あくまで可能性の問題ですので、可能性に賭けるかどうかですね。当院ではこういったEOAの症例では7~8割程度のお子さんで、先月の症例のように乳歯期のみの治療で治療を終えています。100%ではありません。どうしても装置を毎日使えない子や、こういった取り外し式装置で治療できる範囲を超えた症例もあるのです。そのあたりについては順次取り上げて行く予定です。
ということで、次回はこの機能的矯正装置の種類や使用上の注意点などについてお話していきます。