今月は今年度の令和6年度の厚生労働省の保険診療報酬の改定による、歯科矯正の保険適用疾患の追加のお知らせです。
まず、一般的に矯正歯科治療では、健康保険が適用されず治療費はすべて全額自費と思われがちですが、例外として以下にあげる疾患・症例の方は厚生労働大臣により矯正歯科治療に保険の適用が承認されています。(以下、日本矯正歯科学会公式ホームページより抜粋)
1,「別に厚生労働大臣が定める疾患」に起因した咬合異常に対する矯正歯科治療
2,前歯及び小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る。)に対する矯正歯科治療
3,顎変形症(顎離断等の手術を必要とするものに限る)の手術前・後の矯正歯科治療
*なお、これら保険適用される矯正歯科治療を行える医療機関は、厚生労働大臣が定める施設
基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関のみになります。
この中での「別に厚生労働大臣が定める疾患」とは、疾患の症状の一つとして歯や顎に異常があらわれるとされる疾患で、その種類は厚生労働大臣によって定められています。
有名なのは唇顎口蓋裂で、胎生期に上顎の唇や骨の発育がうまく進まず、割れた状態で生まれてくるため、上顎の歯がきちんと生えることができない症例です。500人に一人くらいの確率であらわれます。
この厚生労働大臣によって定められた保険適用疾患はさまざまあり(下記リスト 参照)、約2年に一度の保険診療報酬の改定で、疾患の追加と疾患名の標記の見直しが行われます。
今年度の令和6年の改定では、新たにクリッペル・ファイル症候群(先天性頸椎癒合症)、アラジール症候群、高IgE症候群、エーラス・ダンロス症候群、ガードナー症候群(家族性大腸ポリポージス)の5疾患が追加され、全66疾患になりました。(変更があった疾患は赤字で記載しています)
ところで、「先天疾患」というと、「すごく大変な病気」「うちの子は普通なので関係ない」と思いがちですが、疾患によっては乳児期に症状が表れ診断名がついたけれど、症状はごく軽度でその後はなんら問題なく成長し、本人も親御さんも忘れてしまっている、というパターンや、逆に「6歯以上の先天性部分無歯症」など、ある程度永久歯の萌出や発育が進んだ状態でないと疾患の判断が困難な症例もあります。
また、今回のように新たに保険適用に追加される疾患もありますので、昔は保険適用出来なかったけれど、今年から適用になるという場合もあります。
(保険でできる矯正治療について 永久歯先天性欠如は10人に1人!!参照 )
せっかくの制度ですので、矯正治療を受けたいと思われている方で以下の疾患に該当される方はぜひお申し出ください。
すでに治療を始められている方も保険診療への切り替えは可能ですので、ご確認ください。
また、当診療所は自立支援機関(旧名称 育成・更正医療認定機関)でもありますので、先天性唇裂口蓋裂等の「別に厚生労働大臣が定める疾患」の治療の場合、保険治療の一部負担金に対する補助制度も適用されます。その他治療費につきましては、『医院紹介』の『治療費』の項もご参照ください。
歯科矯正相談の保険適用について
令和6年の保険改定により、本年6月から、学校健診にて、「歯列・咬合の異常(2:要精検)」の指摘を受けている方にかぎり、歯科矯正相談に保険適用されることになりました。(年度内に一回限り。学校健康診断の結果必須)
ただし、この学校健診に基づく保険適用の相談は、初診の時点で検査(顔面・口腔内撮影・レントゲン・歯型等)を行うことが条件とされており、保険適用3割負担の場合でも窓口負担金が3000円以上、かつ、この場合の相談は、矯正治療の保険適用の可否を判断するために行うもので、診断結果として「保険適用かどうかのみを文書提供すること」とされております。
つまり、今まで当院で行ってきたようなカウンセリングや実際の矯正治療内容に関するご相談はできず、また、口腔内撮影や歯型などは患者さん身体的負担も大きいことから、当院では当面、初診相談は従来通りの自費診療にて行わせていただき(初診相談料2000円)、保険適応疾患であることが確定できた方のみ保険適用とさせていただきます。
実際のところ、保険適用の可否の判断には、ほとんどの場合、歯型や口腔内撮影の必要はありません。(保険適用疾患の第一項の「別に厚生労働大臣が定める疾患」に起因した咬合異常に該当する場合、母子手帳・診断書など疾患名の明記されたものを持参いただければ、保険適用となります。)
当院では基本的に初診相談で上記のような検査を行うことはなく、永久歯の先天的欠如や萌出不全が疑われる場合にレントゲン撮影を行うことはありますが、結果、保険適用外となった場合でも、レントゲンの費用を別途請求することはなく、初診相談料のみとさせていただいております。
今回の保険改定における歯科矯正相談の保険適用に関しましては、「学校健診で指摘された歯列・咬合の異常が保険で矯正治療を受けることが出来るかどうかの診断」に限局したものであり、その他の矯正治療の内容に関する相談や「矯正治療」全体が保険適用になるわけではないことをご了承ください。
<歯科矯正が保険適用となる先天疾患 2024年度>
- 唇顎口蓋裂
- ゴールデンハー症候群(鰓弓異常症を含む。)
- 鎖骨頭蓋骨異形成
- トリーチャ・コリンズ症候群
- ピエール・ロバン症候群
- ダウン症候群
- ラッセル・シルバー症候群
- ターナー症候群
- ベックウィズ・ウイーデマン症候群
- 顔面半側萎縮症
- 先天性ミオパチー
- 筋ジストロフィー
- 脊髄性筋委縮症
- 顔面半側肥大症
- エリス・ヴァンクレベルド症候群
- 軟骨形成不全症
- 外胚葉異形成症
- 神経線維腫症
- 基底細胞母斑症候群
- ヌーナン症候群
- マルファン症候群
- プラダー・ウィリー症候群
- 顔面裂(横顔裂、斜顔裂及び正中顔裂を含む。)
- 大理石骨病
- 色素失調症
- 口腔・顔面・指趾症候群
- メビウス症候群
- 歌舞伎症候群
- クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群
- ウイリアムズ症候群
- ビンダー症候群
- スティックラー症候群
- 小舌症
- 頭蓋骨癒合症(クルーゾン症候群及び尖頭合指症を含む。)
- 骨形成不全症
- フリーマン・シェルドン症候群
- ルビンスタイン・ティビ症候群
- 染色体欠失症候群
- ラーセン症候群
- 濃化異骨症
- 6歯以上の先天性部分無歯症
- CHARGE症候群
- マーシャル症候群
- 成長ホルモン分泌不全性低身長症
- ポリエックス症候群(XXX症候群、XXXX症候群及びXXXXX症候群を含む。)
- リング18症候群
- リンパ管腫
- 全前脳胞症
- クラインフェルター症候群
- 偽性低アルドステロン症
- ソトス症候群
- グリコサミノグリカン代謝障害(ムコ多糖症)
- 線維性骨異形成症
- スタージ・ウェーバ症候群
- ケルビズム
- 偽性副甲状腺機能低下症
- Ekman-Westborg-Julin症候群
- 常染色体重複症候群
- 巨大静脈奇形(頸部口腔咽頭びまん性病変)
- 毛 ・鼻・指節症候群(Tricho Rhino Phalangeal症候群)
- クリッペル・ファイル症候群(先天性頸椎癒合症)
- アラジール症候群
- 高IgE症候群
- エーラス・ダンロス症候群
- ガードナー症候群(家族性大腸ポリポージス)
- その他顎・口腔の先天異常