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2024年 9月 歯の生える場所が入れ替わる!? -移転歯-

 さて今月のトピックスのタイトルですが、『歯の生える場所』といわれても、一般の方にはピンときにくいかもしれませんね。

人間の歯は永久歯で全28本あるのですが、すべて1本ずつ形と生える場所が決まっているのです。私たち歯科の人間からすれば、ある1本の歯を見ただけで、それが乳歯か永久歯か、または上下左右の何番目に生えている歯か大体わかります。比較的わかりすい例をお見せしましょう。

 

 

 

AとBの口元の絵を見比べてみましょう。Bの口元になんとなく違和感がないでしょうか?

Bの歯の中心から2番目の歯がとがっていますね。本来3番目にくるはずの犬歯が二番目の前歯と入れ替わっているのです。犬歯は本来の2番目の前歯に比べると、サイズも一回り大きく、形もちがいますので、歯並びがきれいに並んでいてもなんとなく違和感を感じてしまうのです。

 

 こんなこと現実にありえない、とお思いになるかも知れませんが、実際にはそう極端に珍しい症例というわけでもありません。ただし、上図のように、生える場所が完全に入れ替わった上にきれいに並んでいる例はほとんど見たことがありません。

 

こちらの写真をごらんください。

 

 

 

数字が本来はえるはずの順番です。3番目に生えるはずの犬歯が4番目と5番目の間に生えようとしています(2番目の歯はまだ生えていません)。元々4番5番の歯の間には犬歯が生える隙間はありませんので、このまま放置すると、この位置のままどんどん伸びてきて、歯列から横に飛び出した状態になったり、もとからある4・5番の歯が犬歯に押されてでこぼこになってしまいます。また、永久歯の犬歯が本来の位置にこなかったので乳歯の犬歯は抜けず残ったままになっています。

 

次の症例を見てみましょう。

 

 

 

またしても3番目に生えるはずの犬歯が見あたらず、乳歯が残っています。そして、2番目の歯の上のほうの歯ぐきが左右とも盛り上がっています。レントゲンで見てみましょう。

 

 

盛り上がった部分には犬歯が生えようとしています。しかし位置的に2番目の歯の上に重なった状態にあり、このままの方向で生え進んでいくと1番と2番の間の歯ぐきのあたりに生えてくることになるでしょう。乳歯も残ったままです。

本来、乳歯は中心から5番目の歯のように真下から来る永久歯に押されることで徐々に歯の根っこが溶けてなくなり、最終的に乳歯は頭の部分だけになって抜け落ちるのが正しい状態です。(上レントゲン参照)

上のレントゲンのような状態では、犬歯の生える方向外向きか内向きかでも違ってきますが(平面のレントゲンはそこまでの判断は難しいです)もし犬歯が2番目の歯の根っこを圧迫するような方向に向かってしまうと、2番の歯の根っこが、乳歯同様に溶けてしまうこともあります。乳歯のように完全に抜け落ちるところまでいくことは少ないですが、根っこが短くなった歯は歯周病や噛む力の圧力に弱く、抜けやすくなります。

   参考トピックス

2015年 10月 歯の根っこが溶ける!? ―歯根吸収―

 

さて、ではなぜこんなことになってしまうのか?という疑問をいだかれると思いますが、今のところはっきりした原因はわかっていません。

こういった歯の入れ替わりは『移転歯』と呼ばれ、犬歯の前後の歯で入れ替わっていることが多く、顎の骨の中で永久歯の芽(歯胚)ができるときに芽の位置がずれていたり、通常より深い位置に出来て、芽の方向に異常があった場合におこるといわれています。

やはり全体の歯並びも悪くなったり、上記のように隣の歯に悪影響を及ぼしますので、矯正治療の対象となります。治し方としては、通常以下の3パターンが考えられます。

  1. 歯の位置を正常な順番に入れ替える。
  2. 犬歯の生えてくる近くにある歯を動かしてスペースをつくり萌出させる。(最初の症例の場合4・5番の歯の間に隙間を押し広げて犬歯を萌出させる。歯の順番は4・3・5となる)
  3. 重なっている歯(上レントゲンの症例の場合2番目の歯)を抜いて、出来たスペースに犬歯を誘導して萌出させる。(歯の順番は1・3・乳犬歯・4、または乳歯が抜けてしまった場合は1・3・4となり歯の数は1本足らなくなり歯列のアーチが小さくなる)

 

2の「近くにある歯を動かしてスペースをつくり萌出させる。」は比較的難易度の低い治療法ですが順番は入れ替わったままになりますので、見た目の違和感が出ないよう気を使います。

3の「歯を抜いて萌出させる」治療法ですが、「健康な歯を抜くなんて・・・」と抵抗のある方もおられるのではないでしょうか?

ですので、これは重なっている歯の根っこが犬歯によってすでに傷ついて一生はもたなくなってしまっている場合や、全体の歯並び(出っ歯や凸凹など)の治療のうえでどこかの歯を抜く必要がある場合などの特定の条件のもとで行います。

ここで、「どうせ抜くならあとから変な位置に生えてきた犬歯のほうを抜けばいいのに?」と思われるかもしれませんが、骨の中に埋まっている歯を周囲の歯や組織に傷をつけずに抜歯するのは困難なうえ、犬歯は歯列の中でも重要な役割を果たしている歯なので、できるかぎり残してやる必要があるのです。

 

そして、さらっと書きましたが、実は1の「歯の位置の入れ替え」は、歯を動かす上では最も困難です。

例えるなら、ものすごく狭い道で縦列駐車の並びを入れ替えるイメージです。道が顎骨、歯が車です。骨からはみ出したり歯同士がぶつかれば、歯が傷ついたり、動かなくなります。(この場合の傷とは前述のような歯の根っこが溶けてしまうことです。)

また、そもそも車の入れ替えにしても最低限、道幅が車2台分ないと入れ替えは不可能ですが、歯でも同じことが言えます。骨の幅の狭い下あごではほとんど無理ですし、一つ目の症例の様に歯ぐき際まで歯が降りてきているとキビしくなります。顎の骨は歯ぐきに近い部分ほど幅がせまくなっていて、反対にレントゲンの症例の様に歯が深い部分にあるほど余裕があります。もちろん、あまりに深い部分にありすぎても治療用の装置がかけられませんので、こういった歯の入れ替えは治療をはじめるタイミングが非常に重要なのです。

つまりは、早期発見が大切ということです。できれば小学校の2年生くらいには一度歯全体のレントゲンを撮影し、永久歯の数がそろっているか、歯の芽の位置は正常か、など確認しておくと安心かもしれません。

 

来月は実際にどのように移転歯を治療していくのか見ていきましょう。